こんにちは!埼玉県さいたま市中央区の建設業専門行政書士、くりはらです。
今回は、
- 一人親方・個人事業主として建設業許可を持っているが、法人化を考えている
- 一人親方・個人事業主として建設業許可を取りたいが、将来的に法人にすることも考えている
といった方にお勧めの記事です。
そもそも、個人(一人親方・個人事業主)と法人(会社)とは法律上別の人格と考えられています。
法人(会社)は、設立をすることで独立した一つの人格を取得するとされています。法律(法)によって人として認める、といった意味合いで「法人」と呼ばれます。
これに対して個人(いわゆる「人間」)は「自然人」とも呼ばれます。
今回の記事では、わかりやすく「個人(一人親方・個人事業主)」、「法人(会社)」という表現で書いていきます。
建設業界では個人(一人親方・個人事業主)から会社を設立して法人成りするというケースがよくあります。役員・代表取締役が一人のいわゆる「一人会社」であったとしても、法律上は別の事業者として扱われます。
つまり、同じ人が同じお客さんと同じ仕事をする場合であっても「法人成り」をした場合には、個人(一人親方・個人事業主)と法人(会社)とは別の事業者として契約をすることとなります。
この考え方がベースとなり、建設業許可にこれを落とし込むと、個人(一人親方・個人事業主)として建設業許可を持っている事業者が法人成りした場合、その法人(会社)で引き続き建設業許可業者として活動するためには、法人(会社)で新たに建設業許可を取得しなおす必要がある、ということになります。
これを「法人成り新規(申請・許可)」といいます。
法人成り新規のチェックポイント!
「法人成り新規」の建設業許可申請をする場合のチェックポイントは3つあります。
- 建設業許可の空白期間ができる
- 新会社の資本金の設定
- 新会社の役員他
それぞれ詳しくみていきます。
ポイント①建設業許可の空白期間ができる
個人から法人へ建設業許可を切り替える場合には
- 個人の建設業許可の「廃業届」
- 法人の建設業許可の「新規申請」
を一緒に提出します。
そのため、「廃業届」を提出してから「新規建設業許可」が下りるまでの期間は建設業許可がない「空白期間」になってしまいます。
都道府県知事許可では、審査期間が30日ほど必要ですので「廃業届」提出から「新規建設業許可」がでるまでのおよそ30日間は500万円未満の「軽微な工事」しか請負えなくなります。(※国土交通大臣許可では審査期間が120日程度かかります。)
埼玉県では上記の扱いとなりますが、自治体によっては許可番号や建設業許可の空白期間ができないように配慮しているところもあるらしいので、実際に手続きをする場合には審査を受ける都道府県へ確認しましょう。
チェックポイント②新会社の資本金の設定
現在の会社法では1円から設立は可能です。しかし、建設業許可取得を考えているならば資本金は「500万円」以上はあった方がいいかと思います。もちろん、財政状況にもよりますが。(特定建設業許可の場合は4,000万円以上あったほうがいいでしょう)
あとで詳しく書きますが、法人設立後第1期であれば資本金が500万円以上あれば、一般建設業許可の財産要件を満たすことができます。また、経営事項審査の引継ぎも考えると、
- 資本金500万円以上で法人設立
- 第1期が終わる前に建設業許可を申請する
とするのがスムーズかと思います。
チェックポイント③新会社の役員他
法人を設立するときに検討する事項のうち、建設業許可にかかわる部分としては
「経営業務の管理責任者」をどうするか?
法人成りをする際、個人事業主本人が引き続き新規法人の「経営業務の管理責任者」に就任するケースが多いかと思います。
法人での「経営業務の管理責任者」は、その法人の「役員」でなければなりません。株式会社では「取締役」です。
つまり、新会社で引き続き「経営業務の管理責任者」となる個人事業主本人は新規法人の役員(常勤の取締役等)に就任しなければなりません。
事業目的について
法人は、定款に定めた「事業目的」の範囲内でのみ事業を行うことを許されています。
また、建設業許可を申請する際、この「事業目的」が取得しようとしている建設業許可業種に適合しているかを確認・審査します。事業目的の記載内容によっては、事業目的の変更を余儀なくされることがあります。
この事業目的は法人設立後も変更することが可能です。しかし、設立後に事業目的を変更する場合、管轄の法務局に手数料を支払わなければなりません。余計な手間や出費を抑える意味でも、必要な業種(工種)については「事業目的」に記載しておきましょう。
これを避けるため、新設法人の「事業目的」にはその取得したい建設業許可の業種や、その他必要となる許認可についての文言を盛り込むことで、あとあと定款変更をしないで済みます。
経営事項審査(経審)の実績を引き継ぎできる
法人成りした際には、建設業許可は新しい法人として新規で取得しなければならいことは先ほど書いたとおりです。
しかし、「経営事項審査(経審)」においては、個人事業時代の実績を引き継ぐことが可能です。
引き継ぐことのできる項目は以下の4つとなります。
- 完成工事高(完工高)
- 元請完成工事高(元請完工高)
- 営業年数
- 平均利益額
この他にも、審査基準日から6か月以上前から常勤の技術職員であれば「技術職員数」の加算も可能です。社会保険の加入や法人設立、許可取得のタイミング等、事前の調整が必要です。
また、実績の引継ぎをするためには、以下の要件を満たすことが必要となります。
- 個人事業主時代の建設業、建設業許可を廃業すること
- 個人事業主が50%以上出資した法人であること
- 個人事業の廃業日と新規法人の事業年度が続いていること
- 個人事業主が新規設立法人の代表取締役に就任すること
経営事項審査では、2年ないし3年の完成工事高の平均値を使って評価を受けることができるので、この措置を利用できるメリットは大きいと思います。
法人成り新規申請をするなら押さえておきたい4つのポイント!
個人事業主として建設業許可を持っている事業者が、新たに法人を設立し、その新規法人で引き続き建設業許可を取得したい場合=「法人成り新規申請」をする際に押さえておきたいポイントを4つにまとめました。
ポイント1:設立時の資本金を500万円以上にする
新規法人の資本金を500万円以上(一般建設業許可の場合)にして設立をします。
細かいことはここでは不要なので省きますが、第1期決算終了まではこれだけで財産的要件を満たすことができるため、資金に少しでも余裕があれば「資本金500万円以上」とするのがいいでしょう。
そもそも会社経営の基盤となる資金なので、ある程度の金額はないと事業が回っていかないのではないでしょうか。
ポイント2:定款の事業目的にこの先所得する予定の建設業許可業種を記載しておく
法人は定款に定めた「事業目的」の範囲内でのみ活動をすることができます。
そして、建設業許可の申請時に、この事業目的が申請された許可業種が含まれているかを確認します。この「事業目的」に申請した許可業種を営むことが読み取れない場合には、定款の変更をして、事業目的を変更する登記をしなければならず、余計な時間と費用がかかってしまいます。
法人設立後の取得したい建設業許可の業種や、その他必要となる許認可についての文言を盛り込むことで、あとあと定款変更をしないで済みます。
ポイント3:個人事業主本人が取締役に就任すること
個人事業主時代の建設業許可時には個人事業主本人が「経営業務の管理責任者」となります。
この「経営業務の管理責任者」は建設業の経営経験が5年間必要とされています。また、法人の場合はこの「経営業務の管理責任者」はその法人の役員(取締役)である必要があります。
そこで、個人事業主時代の「経営業務の管理責任者」である個人事業主本人が新規法人の取締役となることで、個人事業主として「経営業務の管理責任者」として経営経験は十分にありますから、新規法人でも「経営業務の管理責任者」となることが可能となります。
ポイント4:将来建設業許可を引き継がせたい人(お子さんなど)がいる場合は、その人が経営業務の管理責任者になれるように取締役にしておく
ポイント3の続きとなりますが、お子さんや力のある従業員さんに事業を引き継ぎたい場合、その人が「経営業務の管理責任者」となることができるように役員(取締役等)にしておきましょう。
いつ急な事故などで現在の「経営業務の管理責任者」が仕事を続けられなくなるかわかりません。そのときに「経営業務の管理責任者」となれる人が会社にいない場合、建設業許可は廃業しなければなりません。
いくら500万円以下の「軽微な工事」は建設業許可がなくても施工ができる、とはいえ、建設業許可がなくなることで事業の存続が危ぶまれる可能性もないとはいいきれません。
将来の会社を担う人材は、早い時期から積極的に取締役などの役員に就任させ、リスクの分散をしていく必要があります。
ところで、本当に法人化する?
ここでちょっと視点を変えて「本当に法人化する必要ある?」という観点から建設業許可を考えてみたいと思います。
個人事業で建設業許可を維持する際に注意しなければいけないことは、「事業承継の煩雑さ」です。特に「経営業務の管理責任者」を引き継ぐのがボトルネックとなる場合が多いです。
この点、法人では事業を承継させたい人を取締役(役員)に就任させて登記をしておけば、遅くとも6年後には経営業務の管理責任者となることができるので、対策しやすいです。
しかし、個人事業主の場合、経営業務の管理責任者を引き継ぐには、その方の妻(又は夫)や子供達であればまだ簡単ですが、従業員さんが引き継ぐことを予定している場合は相当慎重な準備が必要となります。
場合によっては、「経営業務の管理責任者」要件を満たせず、建設業許可を廃業しなくてはならないこともあります。
法人化の検討
ここで、法人化するにあたってのメリット・デメリットをまとめたいと思います。
法人化のメリット
(個人に比べて)対外的信用が高い
会社を設立すると、会社名(商号)や、資本金、会社の住所、役員の氏名、代表取締役の住所氏名等が登記簿に登記されます。この登記情報は法務局で管理されていて、誰でも登記簿の写しを取り寄せて確認することができます。
初めての取引でも相手方が資本金などの情報を確認できるので、個人事業主に比べて安心感があります。
また、名刺に「株式会社〇〇代表取締役社長~~」と記載できますので、名刺交換の際の印象がかなりかわります。
おカネの動きがわかりやすい
個人事業では、個人のサイフや通帳から経費も生活費も出ていきます。それに比べて法人は、個人とはまったく別に会計を管理します。そのため、売上や経費の内容を把握しやすくなります。
また、会社としてキッチリとおカネを管理するため、金融機関から融資を受けやすくなります。外注費や材料費など、入金より先に支払が多くなりがちな建設業者には大きなメリットといえるでしょう。
有限責任
最初の方にも書きましたが、個人と法人では「人格が別」となります。そのため、借入金や外注先への支払いが滞ってしまった場合、会社として持っている資産の範囲で責任を負うのみとなります。つまり、会社の責任は会社で負い、社長個人の財産にはかかってくることはない、ということです。
ただし、借入れの際に、社長個人の財産が抵当に入っていたり、連帯保証人となっている場合はその限りではありません。
法人化のデメリット
会社設立に時間やおカネがかかる
会社、特に株式会社を設立するには、定款作成や法人設立の登記、会社用銀行口座の開設など、手続きに時間とおカネがかかります。
株式会社の設立には、合計で25万円~30万円程度のおカネがかかります。
定款認証で5万数千円、登記で15万円、印鑑作成に数千円~数万円、さらに司法書士や行政書士に依頼する場合はその報酬も必要になります。
これらのおカネとは別に「資本金」も用意しなければなりません。
社会保険・労働保険に入らなければならない
法人は、社長一人しか会社にいなくても、社会保険(健康保険と年金)に加入しなければなりません。これは義務とされています。
また、従業員さんがいる場合には労働保険も加入しなければなりません。
この社会保険料は会社と従業員とで半分ずつ支払わなければなりません。従業員が増えれば増えるほど、この負担は増えていきます。
補足
2019年2月8日現在、建設業許可の新規・更新に「社会保険・労働保険加入の義務化」が検討されており、本国会に提出される見通しです。
「社会保険・労働保険加入の義務化」が法制化すれば、建設業者は法人・個人問わず加入せざるを得ず、「デメリット」もクソもなくなります。
事務作業が大変
おカネの動きがわかりやすかったり、融資が受けやすくなったりするぶん、会計処理のルールが格段に厳しくなります。
また、社会保険や労働保険の関する手続きや、株主総会の開催と議事録の作成・保管、会社の情報を最新に保つために登記の変更が必要な場合もあります。
これらすべてを自分でやるのは大変な勉強と時間が必要になります。
かといって、税理士、司法書士、社会保険労務士や行政書士などに依頼すれば、費用がかさみます。
このあたりの事務処理にも時間やおカネといったコストがかかってきます。
法人化するかしないかは経営判断
個人事業のままか、法人化して建設業許可を取り直すか、法人化してから建設業許可を取るか、正解はなく、それぞれの経営判断となります。
メリットのどこが魅力的に感じるか、デメリットのどこが大きな負担と感じるか、これはそれぞれの置かれた環境によって大きく異なるものです。迷ったときはじっくりと考えてみてください。
新規許可になるので、要件を再チェック!
さて、「法人成り新規」の建設業許可はここまで書いてきた通り、「新規許可申請」となります。つまり、新規に建設業許可を申請するのと同様、もう一度許可要件に適合しているかを確認する必要があります。その要件は以下となります。
- 経営業務の管理責任者がいること
- 専任技術者がいること
- 請負契約について誠実性があること
- 請負契約を確実に納品するための資産があること
- 欠格要件に該当しないこと
- 営業所があること
これらの要件について、詳しくは下のリンクをご確認ください。
まとめ
ここまで長々と読んでいただきありがとうございます。
今回の記事をカンタンにまとめると
- 個人での建設業許可業者が法人なりした場合は法人で建設業許可を取り直し
- 法人での建設業許可申請は新規扱い
- 法人を設立するときのチェックポイントあり
- 経営事項審査(経審)の実績を一部引き継げる(条件あり)
となります。
また、法人設立にはデメリットもあり、手続上の手間も増えます。そのため、それぞれのおかれている状況を踏まえて個人事業のまま、という選択もあるということは一考の価値があると思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。