こんにちは!さいたま市中央区の建設手続行政書士、くりはらです。
今日は、建設業許可の5要件と呼ばれる、建設業許可を取得するために必要な5つの条件のひとつ、「経営業務の管理責任者」のお話です。
この「経営業務の管理責任者」ですが、令和2年10月1日より施行された改正建設業法から「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者であること。」という文言へと変更されました。概要については下記の記事をご参照ください。
「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者」ですが、しばらく略称がまちまちになっていますが、「常勤役員等」や今までどおり「経管(けいかん)」「経管者(けいかんしゃ)」と呼ばれることが多いように思います。
結局のところ、常勤の役員等が建設業の経営を適切にできる者が、この役を務めることとなりますので今までの呼び方でいいような気はしています。
「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者」とは
建設業法第7条第1号では「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者であること。」と規定されています。
平たく言ってしまうと「建設業の経営業務を適正に行うことができる事業者であること」が求められている、と言えます。言い換えると、事業者全体として適正な経営体制が整っているかどうか、が問われていることとなります。
ここでは、便宜上「経営業務の管理責任者」と呼ぶこととして進めていきたいと思います。
これまでは、役員の一人が建設業の経営経験があればこの要件を満たすことができました。(現在でもこれは表現を変えて存続しています。)しかし、これまでの要件では、事業の継続性を考えた場合、役員の一人にのみ経営経験を求めることで、事業承継がスムーズに行えないケースもあったようです。これを是正するために「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者であること。」と建設業法が改正され、適正な経営体制を有する事業者もこの要件を満たすことができるようになりました。
また、建設業は、それぞれの建設工事ごとの受注生産で、代金が高額になりがちで、資金や資材の確保、専門の技術者や現場での施工管理・安全対策、近隣住民に対しての騒音対策など、社会に与える影響の大きな仕事です。そのため、建設業許可では、建設業に関する経営経験を求めています。
そしてこの建設業法第7条第1号は「国土交通省令で定める基準に適合する者であること。」とされ、詳細は国土交通省令で基準を定めることとされました。その国土交通省令が建設業法施行規則第7条となります。
この、建設業法施行規則第7条は、第1号と第2号に分かれており、第1号が建設業についての経営経験について、第2号が適切な社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)への加入が規定されています。
第2号については、別に記事を作っていますのでご参照ください。
この記事では、第1号を詳しく掘り下げていきます。
それでは、早速条文を引いてみましょう。
第七条 法第七条第一号の国土交通省令で定める基準は、次のとおりとする。
E-GOV「建設業法施行規則」(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324M50004000014)
一 次のいずれかに該当するものであること。
イ 常勤役員等のうち一人が次のいずれかに該当する者であること。
(1) 建設業に関し五年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者
(2) 建設業に関し五年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る。)として経営業務を管理した経験を有する者
(3) 建設業に関し六年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験を有する者
ロ 常勤役員等のうち一人が次のいずれかに該当する者であつて、かつ、財務管理の業務経験(許可を受けている建設業者にあつては当該建設業者、許可を受けようとする建設業を営む者にあつては当該建設業を営む者における五年以上の建設業の業務経験に限る。以下このロにおいて同じ。)を有する者、労務管理の業務経験を有する者及び業務運営の業務経験を有する者を当該常勤役員等を直接に補佐する者としてそれぞれ置くものであること。
(1) 建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有し、かつ、五年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者(財務管理、労務管理又は業務運営の業務を担当するものに限る。)としての経験を有する者
(2) 五年以上役員等としての経験を有し、かつ、建設業に関し、二年以上役員等としての経験を有する者
ハ 国土交通大臣がイ又はロに掲げるものと同等以上の経営体制を有すると認定したもの。
では、この「経営業務の管理責任者」になるにはどうしたらいいのでしょうか?
条文だけではわかりにくいので、埼玉県の建設業許可の手引きを参考にしながら説明をしていきたいと思います。
経営業務の管理責任者の要件
経営業務の管理責任者となるためには、以下表に記載されている①~③のどれかの要件を満たさなければなりません。
また、「経営業務の管理責任者」の要件は、一般建設業・特定建設業ともに共通です。
法人では常勤の役員等のうち1人が、個人では本人または支配人が右のどれかに該当すること | ① 許可を受けようとする建設業に関し、5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者 |
② 許可を受けようとする建設業以外の建設業に関し、6年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者 | |
③ ②と同等以上の能力を有すると認められたもの A 「許可を受けようとする建設業に関して」経営業務の管理責任者に準ずる地位にあって、次のいずれかの経験を有する者 a 経営業務の執行に関して、取締役会の決議を受け、かつ、その権限に基づき、執行役員等として5年以上建設業の経営業務を総合的に管理した経験 b 6年以上経営業務の補佐をした経験 B 上記のほか、国土交通大臣が①の者と同等以上の能力を有すると認める者 |
個人事業や法人などで建設業を営んでいた方は、基本的には表の①を満たすことで「経営業務の管理責任者」とすることが多いです。②又は③の道もありますが、管轄の行政庁で事前協議などが必要となり、また、求められる書類も多く、審査も厳しいため、この条件で経営経験を認められるにはかなり手間がかかります。
(※平成29年6月30日より、経営業務の管理責任者要件が改正されました。これに合わせて記載を一部訂正しました。詳しくは別の記事をご参照ください。)
そして、ここからが令和2年10月より改正された建設業法により追加された要件となります。
要件としましては、「常勤役員等に一定の経験があり、かつ、一定の要件を満たす補佐者を置くこと」となります。詳細は下記の表をご確認ください。
法人では常勤の役員等のうち1人が、個人では本人または支配人が右のどれかに該当すること | ① 建設業に関し、2年以上の役員等の経験を含めた5年以上役員等又は役員等に次ぐ職制上の地位にある者としての経験を有する者 |
② 建設業に関し、2年以上の役員等としての経験を含む、5年以上の役員等の経験を有する者 |
上記どちらかの要件を満たしたうえで、下記の要件を満たす者を「役員等を補佐する者」として配置していなければなりません。この「役員等を補佐する者」は各部門で一人ずつでも構いませんし、すべて同じ人でまかなえる場合は一人でも可能です。
A.財務管理の業務経験 | 建設工事を施工するにあたって必要な資金の調達や施工中の資金繰りの管理、下請業者への代金の支払いなどを行う部署における業務経験 |
B.労務管理の業務経験 | 社内や工事現場における勤怠の管理や社会保険関係の手続きを行う部署における業務経験 |
C.業務運営の業務経験 | 会社の経営方針や運営方針を策定、実施する部署における業務経験 |
上記の「業務経験」とは、申請する事業者において、5年以上の建設業に関しての経験を指します。
この「常勤役員等に一定の経験があり、かつ、一定の要件を満たす補佐者を置くこと」の要件で許可を取ろうとする場合、許可を取る予定の行政庁で事前相談が必要となります。
確認資料
「経営業務の管理責任者」の要件を満たすこと(建設業に関して経営経験があること)を証明するために、以下の資料を添付する必要があります。
このとき、「経営業務の管理責任者」になる人が建設業許可を持っている建設業者で役員等に就いていた場合には、
- 個人事業の場合には確定申告書もしくは建設業許可申請書の副本
- 法人の場合には履歴事項全部証明書(登記簿のことです)
があれば足ります。
また、「経営業務の管理責任者」になる人が、建設業許可がなく、個人事業または自分の会社で積んだ経験を証明する場合は上記と一緒に
- 契約書、請求書、注文書等や通帳
が必要となります。これらの書類をもって、「建設業についての経営経験があること」を証明します。建設業の経営者として工事を受注していたことを証明することが求められているともいえます。
表にして整理すると
経験を証明する者が個人 | 経験を証明する者が法人 | |
経験を証明する者が建設業許可業者 | 確定申告書の控え、もしくは許可申請書の副本 | 履歴事項全部証明書(登記簿) |
経験を証明する者が建設業無許可業者 | 上記に加えて、契約書、請求書、注文書や通帳 | 上記に加えて、契約書、請求書、注文書や通帳 |
新規に建設業許可を取得する場合は、自分で自分の経営経験を証明する必要があることが多いので、「契約書、請求書、注文書や通帳」は失くさないようにしっかりととっておきましょう。
要件が満たせないとき、他社から経験者を呼ぶと思わぬトラブルになることも・・・
現時点で「経営業務の管理責任者」の要件を満たせないとき、他社から要件を満たす人材に「経営業務の管理責任者」になってもらう方法をとる場合があります。
その人材が実際に経営業務の管理責任者としての職務を果たしていれば、もちろん違法ではありません。
しかし、この方法をとることで、あとあと大きなトラブルとなることもあるので、注意しなければなりません。
例えば、ご自身が経営業務の管理責任者の要件をみたせず、元請などの他社の役員経験者(仮にAさんとします。)に自社の経営業務の管理責任者として来てもらった場合です。
このとき、Aさんはもちろんご自身の会社の取締役に就任します。取締役であるAさんは自社の意思決定に参加することが可能になります。つまり、自分の会社経営に口出しされたりすることもあり得ます。
また、建設業許可を取得した後になって、ご自身が経営業務の管理責任者の要件を満たしていないことを逆手にとって「許可を維持したいんだったら、もっと役員報酬を上げてくれ、でなければ俺は役員をやめるぞ!」なんてことにもなりかねません。
こういった事態を避けるには、やはり社長自身、または自社の役員が経営業務の管理責任者となるのがいいでしょう。
まとめ
ここまで、「経営業務の管理責任者」について詳しくみてきました。
いかがでしたでしょうか?
要件は満たせそうでしたか?それとも今はまだ年数が足りなさそうでしょうか?
今はまだ要件を満たせなくても「いつかは建設業許可がとりたい」とお考えの方は、まず、確認資料として必要となる「契約書、請求書、注文書や通帳」などの建設業の経営をしていることを証明する資料をしっかりと保存しておくことが大切です。
いつか要件を満たして、いざ建設業許可をとろう!となっても、資料がなくてはどうにもならなくなってしまいます。「書類は捨てちゃったけど、経験はある!」なんて建設業担当の窓口でいくら説明しても、書類がなくては許可はとれません。
そうならないためにも、書類はしっかりと取っておきましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました!
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